PROJECT STORY

プロジェクトストーリー

瀬戸内海の愛媛県上島町・弓削島にある町内唯一の県立高校である県立弓削高校。生徒減少による廃校の危機を脱するため、全国からの学生を呼び込むための学生寮を建設するプロジェクトがスタートしました。

2019年入社
大建設計工務 意匠設計
石井 拳

設備設計
黒川 道春

構造設計
橋本 圭

監理
矢野 和彦

このプロジェクトは、全国から学生を誘致することを目指し、学生が「ここに住みたい」と思えるような魅力的な学生寮を作ることがゴールでした。温かみのある家のような雰囲気があり、学生同士の交流が自然と活発になるような環境を提供することを目指しました。

プロジェクトの初期段階では、適切な寮の人数を決めるところから検討が始まりました。学生寮を新しく建築するという試みが初めてであったため、応募人数がどれくらいになるかは未知数であり、さらに男女比も予測が困難でした。このため、どの程度の規模で設計するかについて、慎重な検討が求められました。

特に重要な課題となったのは、プライバシーを重視するのか、コミュニケーションを重視するのかという点です。一人部屋にするのか複数人の相部屋にするのか、お風呂をどの大きさにするのか、男女の住み分けをどのように行うかなどの検討事項が上がりました。一定のプライバシーを保護しつつ、コミュニケーションが生まれる部屋構成にできるかが課題でした。

また、学生に安心して暮らしてもらえるような温かみのある家のような雰囲気を目指しました。温かみを出しつつ、安全性の高い寮にするために、鉄骨造か木造かで検討を重ねました。木造に決定した後には、木造の良さや特徴をどのように出すかが課題となりました。

プロジェクトメンバーには学生寮の建設経験がなく、県立弓削高校も初めての学生寮だったことから、他校の学生寮視察を行いました。実際の学生の生活を目にすることで、プロジェクトメンバーの一人ひとりが、学生のタイムスケジュールを具体的にイメージすることができるようになりました。

弓削高校が存続するためには、町外から最低でも12名程度の入学者を確保する必要があったため、各学年10名づつの計30名に決定しました。30名のタイムスケジュールを綿密に検討した結果、複数人で同時に入浴することが必要と判断され、浴室は3名程度で使用できる大きさに設計しました。食事や入浴でコミュニケーションが生まれるので、部屋は個室にしプライベート空間を確保する設計にしました。これにより、6畳1間の広々とした部屋で、30名の学生が快適に過ごせる環境が整えられました。

親元を離れて離島で生活する学生に、家のような安心感を持ってもらうため、木造2階建ての外観・内観ともに木の温もりを感じる、耐震性、防火性にも優れた寮にしました。床や柱には県産のヒノキや杉を使用しています。また、女子用の部屋の出入り口にはオートロック機能を設置することで安心して過ごせる環境を作りました。

「学生寮」という未経験のジャンルの建物を建築することで、1から検討をするプロセスから施工まで、一連のプロジェクトの進め方を経験することができ、今後どのようなプロジェクトが来ても乗り越えていけるという自信に繋がりました。

2024年度から学生寮がオープンし、新入生12人を含む14名が4月から生活しています。各学年10名の想定で設計された学生寮の1年目としては適切な人数の入寮です。この成功の背景には、施主、業者、メーカー、プロジェクトメンバー、いろいろな人の協力があり、プロジェクトを遂行することができました。

このプロジェクトを通じて得た自信と同時に、設計の難しさと一人では成し得ないことを痛感し、チームの重要性を再認識するきっかけになもなりました。プロジェクトの進行においては、コミュニケーションが鍵となり多くの壁にぶつかりながらも、関係者との協力を通じて問題を解決し、最適な構造や設備を決定していくことができました。