#02
愛媛県久万高原庁舎建設
シンボリックな庁舎へ
築50年以上が経過し老朽化が著しく、耐震性能不足の庁舎を建て替えるプロジェクトがスタートしました。
スギ・ヒノキなどの良質な木材がある林業の街にふさわしいシンボリックな庁舎にするべく、令和7年度中の完成を目指しています。
デザインと法律のせめぎ合い
久万高原庁舎の設計において、木材の産地という特性を活かし、木造のイメージを強調したデザインが求められていました。
しかし、延べ面積が1,000㎡を超える建築物には防火上有効な構造の防火壁又は防火床によって有効に区画する必要があり、久万高原庁舎はこれに該当していました。1階と2階を完全に木造とする設計は難しく、いかに木造のイメージを損なわずにコンクリートを活用するかが重要な課題となりました。平成30年に改正された建築基準法により、防火床の利用が可能となったものの、防火床には2.5メートル四方の開口しか開けられないという規定がありました。このため、階段の設置が難しくなるなど、多くの課題がありました。実際に防火床を採用した事例がほとんどなかったため、具体的な解決策を見つけるのに非常に苦労しました。
また、県産材を使用し県内で製材されているCLTの活用方法も争点となりました。
愛媛県からCLTを200 ㎥使用することを要望として受けていたが、コストの兼ね合いでどの部分に使用するかが課題でした。
条文解釈のすり合わせが突破口に
建築基準法が平成30年に法改正されたことにより、防火床の使用が可能となり1階を鉄筋コンクリート造、2階を木造とする計画が可能になりました。この条文の認識のすり合わせを、愛媛県の審査担当と行い都度確認をもらい作業を進めました。これにより、久万高原庁舎でも1階を鉄筋コンクリート造、2階を木造の構成が可能となりました。
1階部分にも木材を内装材として使用することで、建物全体に木造建築の温もりと風合いを持たせる空間にしました。2階部分においては、壁や天井、屋根にCLTを活用するだけでなく、会議スペースの間仕切りなど目につく場所にもCLTを使用しました。これにより、建築全体で200㎥のCLTを使用するという目標を達成するとともに、木造の雰囲気を出すことに成功しました。
頻繁なコミュニケーションで生まれたもの。
このプロジェクトは、防火床の採用やCLTの利用など、社内に経験のない新しい試みが数多く含まれていました。設計過程において発生するさまざまな課題に対しては、愛媛県の審査担当者や関係業者との密なコミュニケーションを通じて解決を図り、最適な構造や設備を決定しました。
このプロジェクトを通じて、社内には防火床やCLTの具体的な使用事例が蓄積され、今後の建築プロジェクトにおいても貴重な経験として活かされます。また、地域産材の活用や防災拠点機能の強化といった社会的な要請にも応えることができ、地域社会にとっても意義深い建築物となりました。